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和歌山地方裁判所 平成11年(行ウ)8号 判決 2000年12月19日

主文

一  原告が平成九年一〇月二七日付けでした産業廃棄物処分業の許可申請について、被告が平成一一年一一月一〇日付けでした不許可処分を取り消す。

二  訴訟費用は被告の負担とする。

事実及び理由

第一当事者の求めた裁判

一  原告

主文と同旨

二  被告

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二事案の概要

一  事案の要旨

原告は、原告がした産業廃棄物処分業の許可申請は許可要件を全て充たした適法なものであったのに、被告がこれを認めず不許可処分をしたのは違法であるとして、右不許可処分の取消しを求めた。

これに対して、被告は、原告の右許可申請は後記のとおり許可要件を充たしていないから、右不許可処分は適法であるとして争っている。

二  前提事実

以下の事実は、当事者間に争いがないか、証拠(甲一の1、2、二ないし四、五の1、2、一一の1、2、5、14)及び弁論の全趣旨から容易に認められる事実である。

1  原告は、産業廃棄物処理業等を営む株式会社である。

被告は、廃棄物の処理及び清掃に関する法律(以下「廃掃法」という。)一四条四項及び一五条一項の各許可につき国の機関としてその事務を管理執行する者である。

2  原告は、平成八年ころから、和歌山県橋本市α七九二‐二四、七九二‐二八に産業廃棄物処理施設(以下「本件事業場」という。)を設置することを計画し、平成九年一〇月二七日、被告に対して、産業廃棄物処理施設設置の許可申請とともに、産業廃棄物処分業の許可申請(以下「本件許可申請」という。)をした。

被告は、「平成九年九月二四日付け高保第一一七〇号及び高保第一一七九号により本職から通知した『産業廃棄物に関する調査書に係る指導事項について』の措置状況の説明が不十分である。特に橋本市長の理解を得ることという指導に対し、理解を得たことを証する書面が添付されていない。」として、本件許可申請を受理しなかった。

原告は、これを不服として、平成一〇年九月二日付けで、厚生大臣に対し、行政不服審査法に基づき、本件許可申請の審査請求をしたところ、厚生大臣は、平成一一年一月二九日付けで、被告に対し、「速やかに産業廃棄物処理業許可申請に対して何らかの処分をすべきことを命ずる」との裁決をした。

3  被告は、平成一一年一一月一〇日、本件許可申請に対して許可しないことを決定し(以下「本件不許可処分」という。)、そのころ原告に対してその旨を通知した。

本件不許可処分の理由は、「産業廃棄物処分場への搬入道路は、産業廃棄物処分業を的確かつ継続して行うに当たり、当然具備すべき主要な施設であるにもかかわらず、申請の事業場への搬入道路は別添橋本市長の回答書(写)にもあるとおり、車両が対向するには非常に狭隘であり、また当該道路は、通勤、通学用として地区の唯一の生活道路であることから、産業廃棄物の搬入車両の通行に伴う、交通安全上の問題、沿道住居への粉じん及び騒音など環境保全上の支障が予測されるので、廃棄物の処理及び清掃に関する法律(昭和四五年法律第一三七号)第一四条第六項の規定に照らし、不適合であると判断される。」というものであった。

4  原告は、平成一一年一二月二五日、本件訴えを提起した。

三  争点及びこれに関する当事者の主張

本件の争点は、本件不許可処分の適法性であり、具体的には、「被告が、本件事業場への搬入道路の不具合があることをもって、廃掃法一四条六項により本件不許可処分をすることができるか。」である。

(被告の主張)

1 廃掃法一四条六項は、「都道府県知事は、第四項の許可の申請が次の各号に適合していると認めるときでなければ、同項の許可をしてはならない。」と規定しているだけで、「都道府県知事は、第四項の許可の申請が次の各号に適合していると認めるときは、同項の許可をしなければならない。」と定めているわけではないから、同項各号所定の要件が充たされるとしても、被告は裁量により不許可処分をすることもできる。このことは、同法七項が「第一項又は第四項の許可には、生活環境の保全上必要な条件を付することができる。」と規定し、被告が本件事業場への搬入道路の整備、交通安全対策及び沿道住居への粉じん・騒音等環境保全対策の完備を許可条件とすることが可能であったことからも明らかである。

そして、右搬入道路には交通安全及び環境保全上支障を来す不具合があったから、被告は、これを理由に前記不許可処分をなしうるものである。

2 本件事業場への搬入道路は廃掃法一四条六項一号にいう「その事業の用に供する施設」に該当するから、これに右のとおり不具合が認められる以上、被告は前記不許可処分をなしうるというべきである。

3 したがって、本件不許可処分は適法である。

(原告の主張)

1 産業廃棄物処分業の許可は、公共の福祉の観点から、本来自由であるはずの私権(財産権)の行使を廃掃法によって制限しているという性質をもつものであるから、産業廃棄物処分業の許可に当たって、都道府県知事に与えられた裁量は、廃掃法に定める要件(同法一四条六項各号)に適合するかどうかの点に限られ、これに適合すると認められるときは必ず許可しなければならない。本件許可申請は廃掃法一四条六項一号にいう厚生省令(同法施行規則)一〇条の五及び廃掃法一四条六項二号の各要件を充たしているから、被告としてはこれを許可しなくてはならないのであって、本件事業場への搬入道路の不具合を理由に不許可とした本件不許可処分は違法である。

2 仮に、被告が、右各要件以外に「その事業の用に供する施設」が「その事業を的確に、かつ、継続して行うに足りるもの」か否かを許否の判断材料となし得るとしても、被告が主張する搬入道路が道路法の適用を受けている国道三七一号線及び橋本市の市道(彦谷北宿線)であることからすると、右搬入道路をもって「その事業の用に供する施設」ということはできないから、搬入道路の不具合を理由とする被告の主張は理由がない。

3 したがって、本件不許可処分は違法である。

第三争点に対する判断

一  廃掃法一四条六項は、「都道府県知事は、第四項の許可の申請が次の各号に適合していると認めるときでなければ、同項の許可をしてはならない。」と規定している。その文言のみによる限り、被告が主張するとおり、同項各号以外の要件を除外する趣旨ではなく、都道府県知事はさらに裁量によって許可しないこともできると解される余地がないとはいえない。しかしながら、廃掃法一四条六項は、私権の行使を公共の福祉のため制限するものであるから、廃掃法一四条四項の許可についても、同条六項の文言のみによるのではなく、これに関連する諸規定を総合的に判断して、同項各号所定の要件に適合する場合でも、なお、都道府県知事に対して許可を与えるか否かの裁量権を与えていると解されるときでない限り、必ず許可をしなければならないものと解釈するのが相当である。そして、同条七項は、「第一項又は第四項の許可には、生活環境の保全上必要な条件を付することができる。」と規定しているが、同条六項各号に定める要件を充たさない場合以外にも都道府県知事は裁量によって不許可処分をなしうるとすれば、その裁量の範囲内において条件を付することができるのは当然のことであるから、条件を付することができるとした右七項は必要がない。むしろ同条七項は、同条六項各号の要件を充たす場合には都道府県知事は許可しなければならないことを前提に、無条件で許可をしたのでは「生活環境の保全」を図ることが不可能ないし困難な場合に、必要な条件を付することによって不都合な事態を避けることを可能にした趣旨の規定と解すのが合理的である。以上によると、廃掃法一四条六項は、同項各号の要件を充たさなければ許可してはならない旨を定めた規定であると同時に、右要件を充たす場合には許可しなければならないことをも定めた規定であって、都道府県知事に被告の主張するような裁量権は与えられていないといわなければならない。

被告は、許可に当たって生活環境の保全上必要な条件を付することができる以上、生活環境の保全上必要であれば不許可とすることもできる旨主張するが、右のとおり、条件を付することができるのは、あくまでも許可処分をしなければならないことが前提になっていると解すべきであるから、廃掃法上必要な条件を付することができると規定されていることをもって不許可処分をなしうるとする理由にはならない。したがって、被告の主張は採用することができない。

二  次に、廃掃法一四条六項一号は、「その事業の用に供する施設及び申請者の能力がその事業を的確に、かつ、継続して行うに足りるものとして厚生省令で定める基準に適合するものであること。」と規定しているところ、被告は、同号の適合性を判断するに当たって、同号にいう厚生省令(同法施行規則一〇条の五)に定める基準以外に、「その事業の用に供する施設及び申請者の能力がその事業を的確に、かつ、継続して行うに足りるもの」か否かを考慮することができることを前提に、本件事業場への搬入道路が「その事業の用に供する施設」に該当すると主張する。

しかしながら、同号の右規定によれば、都道府県知事が廃掃法一四条四項の許可の申請につき、同条六項一号の適合性を判断するに当たり、同号の厚生省令所定の基準以外の要素を考慮すべきでないことは、文理上明らかである。被告が主張するように、右厚生省令所定の基準以外の要素を考慮することができるというのであれば、廃掃法一四条六項一号は、「厚生省令で定める基準に適合し、その事業の用に供する施設及び申請者の能力がその事業を的確に、かつ、継続して行うに足りるものであると認められること。」のように規定されるはずであり、他に被告の主張を根拠づける規定が見当たらないから、被告の右主張は失当である。

三  以上によれば、被告は、本件許可申請を判断するに当たり、本件事業場への搬入道路に不具合があることを理由に廃掃法一四条六項に適合しないとして不許可処分をすることはできないといわなければならない。そうとすると、右の点を理由とする本件不許可処分は、他の適法事由について主張立証のない本件においては、違法といわざるを得ない(なお、許可処分をすることによって重大な被害を引き起こす危険性が極めて高いなど一定の場合には、許可権者たる都道府県知事はその裁量をもって緊急避難的措置として不許可処分をすることができるという余地がある。

しかしながら、本件では、本件事業場への搬入道路《国道三七一号線、市道彦谷北宿線》が一部狭隘である《乙三ないし一九》ものの、本件事業場以外の処分場へ廃棄物を搬送する車両等の大型車両が右搬入道路を走行していること《甲一四の1ないし41》に照らすと、緊急避難的措置を講じることが不可欠であるというまでの事情は認められないから、被告は右を理由に本件許可申請を不許可とすることはできない。)。

よって、原告の本件請求は理由があるから認容することとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 礒尾正 裁判官 間史恵 裁判官 田中幸大)

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